二〇周年記念講演会【1:(1)"The disabled"から"A person with a disability"へ】

1.障害者は障害のない人と同じ「人」である
(1)"The disabled"から"A person with a disability"へ

 

 最初に障害者は障害のない人と同じ人である、という言葉をここに書いておきました。そしてthe disabledからa person with a disabilityという表現へ変わってきたと。

 最初からちょっと英語の復習みたいな話になってきますけれども。このdisableという、能力が低下しているとか、能力がないとか、あるいは障害関係で言えば障害というような意味合いを持っているわけですが、そのdisableに定冠詞のtheをつけて、the......edと表記すると、日本語に訳すと障害者となるわけですね。disableという、あるいはthe disabledという単語だけで、障害者を表わすというのは、考え方としては、障害だけからその人々を見る見方なんです。しかしこれは1980年ごろから、英語の文献で非常に目立つようになってきたことでありますが、a person with a disabilityと、こういう表現が、ちょっとまわりくどいんですけれども、使われるようになってきた。a personと最初に「人間」であることを打ち出し、その上でその人はたまたまと申しますか、障害を伴っている、障害がある、with a disabilityと後ろにくっつける。これは英語でアメリカなんかで障害のある児童生徒というふうな表現になると、a studentというのが最初に言われ、a student with a disabilityとなる。あるいは障害のある女性は、a women with a disabilityとなります。当然、それの複数形があるわけですが、とにかくまずもって人間であると、この人々はまずもって人間であると。こういう考え方が、この人々に対する呼び方にも表われてきたということであります。

 これは単に行政の用語として使われるだけではなくて、学術論文でもこの表現がほぼ定着してきています。法律という点から言えば、the disabledと言っちゃったほうが簡単なわけでありますけれども、単語をいくつも使っているのは、それなりの思想的な背景があり、この人々についての見方の転換がある、というふうに考えていいのではないかと思います。

 ついでに言いますと、例えばアメリカのある州で出発した知的障害者の当事者の団体。つまり知的障害者本人たちの団体の名称は、"people first"です。まずもって人間であると。どう訳したらいいか。それでいいですかって英文の先生に聞いてみたら、まあ、いいんじゃないのってこういうふうに言われたので、私はその後そういうふうにお話をしたりしております。

 自分たちの団体名を"people first"としたのですね。それはその後、全米に広がり、世界に広がっていきました。日本でもそういう団体ができました。障害のある人々は障害があるっていうだけで特徴づけられるのではなくて、まずもって人間であって、障害があるのだという見方になってきたということですね。

 私が非常に若いころから読んで勉強させてもらってきた、旧ソビエトの心理学者にヴィゴツキーという人がおりました。彼は本当に残念ながら、1930年代に活躍して、10年ほどで病気で亡くなってしまった。心理学者として活動したのは10年ほどの人なのですけれども、画期的な業績を残した方であります。いわゆるソビエトの心理学の基礎を築いた人でもありますが、同時に当時は欠陥学といったのですが、ソビエト欠陥学の出発するころに、理論的なリードをした心理学者であります。

 欠陥学と言ったので、今思い出しましたが、東北大学は旧7帝大では初めて、知能欠陥学という講座をつくった大学であります。当時、松本金寿先生という方がおられてつくられたはずであります。松野先生がその教授にもなられたのですけれども、今は障害学といったりすると思います。当時、翻訳は欠陥学、あるいは知能欠陥学と、あまりよくない表現ですが、とにかくそのリーダーでもあったヴィゴツキーという人は、障害のある人々を見る場合に、「ちょっぴりの病気よりもたくさんの健康さに注目すべきである」という、ある講演で、注目すべき発言をしているんです。講演録にそれが出てきますけれども。ちょっぴりの病気というところは、障害と言い換えて一向に構わない。「ちょっぴりの障害よりもたくさんの健康さに」、つまりできないところばっかり見ていないで、できなさを抱えつつ、できる部分をたくさん持っている。つまりは健常者と共通部分を持っている人として、障害のある子どもたちを見るべきではないのかというふうな問題提起でありました。これも国はソビエトでありますけれども、今に通じる言葉ですよね。a person with a disabilityとの共通性があります。こういう言い方、ちょっと注目しておいていいのではないかというふうに思います。


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